羽鳥 隆 在バンクーバー日本国総領事インタビュー

昨年11 月、羽鳥隆在バンクーバー日本国総領事が着任された。在留邦人にとって日本国総領事館はなくてはならない存在ながら、普段はなかなか訪れることは少なく、領事の方々が、どういう職務にあたっておられるかをほとんど知らないという人も少なくないのではないだろうか。Oops! 社編集長が読者を代表し、日本国総領事館を訪ね、羽鳥総領事に公私にわたるお話を伺った。

バンクーバーの印象に関して

バンクーバーの印象をお聞かせください。
 来る前から「世界で最も住みやすい都市」のトップ5に入るようなことは聞いておりました。ただ冬は雨ばかりで若干憂鬱になる方もいらっしゃるということも…。しかし、来てみましたら本当に風光明媚で素晴らしい都市で。冬も今年は雨が少なくて本当に素晴らしい場所だと思います。それに人が温かいというか、街を歩いていて人に道を聞くと、すごく丁寧に教えてくれるんですね。あと、何よりも日本人・日系人の方が大勢いらっしゃって日本にも関心が高いというところで、すごく素晴らしいところだと思っています。

ご自身に関して

小さい頃や学生時代のお話をお聞かせください。
 小学校では真面目というか勉強はできるほうで、学級委員をするような感じでした。スポーツは小学校の時は特にはしませんでしたが、中学、高校でバレーボールをやっておりました。キャプテンもやっていて、400 校くらい参加して3回戦くらいまで進出したこともあり、非常に楽しかったですね。高校で英語の成績が良かったことと、外国に対する憧れというのもあり、大学では留学生と交流するサークルにいました。

外交官、外務省を目指されたのもその頃から? また就活はされましたか?
 そうですね、大学時代にそのサークルにいながら、海外も夏休みにアメリカに行ってみたりとかして、「外国語で仕事をする」つまり日本人の中だけでなく、全然違う文化の人たちと、日本語以外の言葉でコミュニケートして、人間的な関係を作っていくということは非常に面白いな、と思いました。その頃の志望は商社マンとか…。大学の後半くらいで外交官か、海外駐在のある会社に入りたいと思っていました。
 それから外務省の専門職の試験に受かりました。当時は10 月が就活開始の時期だったので、外務省の最終結果が出る前に、就活が始まってしまうわけなんですよね。だから最終的に不合格になる可能性も視野に、10 月に就職活動を始めましたけど、10 月の下旬くらいにはもう外務省に最終合格しました。

外務省に入省されてから韓国に赴任された経緯は?
 大学の時は留学生と友達になって、韓国に旅行に行ったくらいで、その時はまだ韓国語はできなかったのですけれど、外務省に入る時に入省後、どこの言葉を勉強したいかの志望を出すのですが、私は第1志望を韓国語にしました。それで韓国語は「ちょっとだけわかる」くらいの状況で外務省に入り、外務省の研修所で韓国人の先生に3、4 ヵ月訓練をしてもらって、そのあと留学したんです。留学の間も所属は大使館でしたが、留学中は勉強に集中し、2年間の留学が終わったあとは大使館で書記官として仕事をすることになりました。

韓国で受けた日韓関係の印象は?
 日本と韓国との関係は、歴史の問題をめぐっての教科書問題であるとか、竹島の領土問題であるとか、もうずっとガタガタしてましたから…その度に日韓の政治家がやっぱり仲良くしなけりゃいかん、ということで歴史の問題を日本側が謝ったりだとかということの繰り返しでした。ただ、一般の韓国の皆さんは、それほど日本のことを悪くなんか思っていないんですね。年間700 万人くらいの韓国人が日本へ旅行に来ていて、日本が好きな人は大勢いますから。政府間だとどうしても一部の方の日本批判やそれを無視できない韓国政府が曖昧な態度を取ることが、今の日韓関係を悪くしている一番の大きい原因だと思いますが、韓国人全体では反日感情の強い人はほとんどいないと思います。

ご趣味は?
 ロックギター、エレキギターです。中学生くらいからそういう音楽が好きだったのですが、クラブはバレーボールをやっていたので、バンドを組んだりとかはしませんでした。大学の時に短期間バンドを組んだり、外務省でも2015 年に韓国に行く前に東京でビートルズのコピーバンドをしたりとかしていました。韓国でもやりたかったんですけど、仲間がなかなかいなくて結局できなかったので、もう今回はいろんなところで着任の挨拶で「ギターを弾いている」と言って。何人かからお声がけいただいて、今、他の国の総領事の人達と始めているところです。

総領事に着任されて

今年、領事館をこんな風にしてみたいという抱負はありますか?
 基本的に我々がやるべきことというのは、カナダと日本の関係をより良くしていくということだと思うんですね。そのためにやはり、日本に関心を持ってもらうことが大事だと思います。世代が移るにつれて、何十年も前だったら日系人や日本とのつながりが深い方が大勢いらっしゃって、日本に関心のある人も自然と大勢いたと思うんですけど、今の時代は、新しい世代に日本に関心を持ってもらうように、いろんな行事をやって皆さんに紹介したりとか、努力して引き続きやっていく必要があると思います。
 日系コミュニティーとのお付き合いは、皆さんに今私が持っている色々な課題などをどうしたらいいのかとか、カナダってどういうところなのかということを教えていただくという意味でのお付き合い、我々の仕事をご支援いただくためのお付き合いをしていくことだと思うんです。その支援をいただいて、もう少し広く、日系以外の皆さんに対しても日本への親しみを持ってもらうための交流をしていくということが我々の仕事だと思います。それからもちろん、領事館というのは「領事」なので、日本人の皆さんのここでのご滞在のご不便だとか、政府との関係での手続きとか、あるいは何かあった時に日本政府から保護を受けられるということを提供させていただくということになりますので、そういう意味でのお付き合いはもちろん大事だと思っております。

バンクーバーに滞在している在留邦人に一言

留学生やワーホリの方にメッセージをお願いします。
 今、日本はある意味、どんどん「内向き」になっているとよく言われます。外国に留学もしたくないし、旅行も外国にそんなに関心もなくて、日本の中で日本人同士で一緒にいて他の文化の人がいなければある意味、気心が知れていて楽だということで、そういう「内向き」に楽しく穏やかにやればいいじゃないかという感じが若い人に増えてきていると思うんですよね。そういう中でワーホリであれ、留学であれ、外国に、世界に飛び込んできている若い皆さんについては、皆さんが非常に積極的な前向きな気持ちを持って来ていると思うので、ぜひいい体験をしてほしいし、若い人はこれから社会で戦っていくわけですから、そのための力をつけてほしいと思っています。それは外国語だけじゃなく、社会人になって仕事をしていく、さらに幸せな人生を送るためには、自分の力で戦うことが大事で、そのためにはコミュニケーションであるとか、人の気持ちを掴むとか、そういうことが大事なのじゃないかと思います。外国に来て異文化の人達と一緒に毎日苦労することを通じて、そういう力を身に付けられると思いますので、ぜひ頑張ってほしいと思います。

日系のコミュニティーにも一言。
 コミュニティーの皆さん、特に日本国籍で居住されている皆さんについては、私ども総領事館として、色々な行政手続きなどで我々がお手伝いするという立場でもあるんですが、総領事館の活動をご支援いただく、日本のことを紹介したりとかという時にアドバイスをいただいたり、いろんな機会にご参加いただくということもあると思いますので、そのような機会にご支援をいただければと思います。日系コミュニティー、日系人の皆さんは、世代が上に行けば行くほど日本のことはもうよくご存知だと思うんですけど、若い日系人の皆さんにももっと日本に関心を持っていただくということで、日本の理解を広めるお手伝いをしていただければ、というふうに思います。

羽鳥総領事とのインタビューを終えて
 今回、羽鳥総領事とインタビューをさせていただき、物腰が柔らかく、お話のされ方も落ち着いた口調で受け答えをしていただき、羽鳥総領事のお人柄に触れる思いが致しました。そんな羽鳥総領事ですが、中学校の頃からエレキギターを演奏され、また、ここバンクーバーに ある他の国の領事館のスタッフとバンドを組む予定をしている、というようなお話をしていただき、羽鳥総領事の別の面を知ることができた思いです。ここバンクーバーには中国や韓国の方が日本人以上にたくさん住んでおられます。このところの日韓、中加の関係には緊張する場面が多いですが、ここに住む日本人にとって、足を運びやすい領事館にしていただきますように願って止みません。
編集長:中村

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