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『Midsommar』-明るく禍々しい異色のホラームービー

『Midsommar』-明るく禍々しい異色のホラームービー

 7 月も半ばというのに、雨がちで肌寒い今年のバンクーバー。夏服に袖を通したのは6 月に日本にいた2 週間だけ。せっかくクローゼットの衣替えをしたのに、一度も半袖を着ていない。そんな寒いバンクーバーの夏をさらに寒くしてくれるのが、現在公開中の『Midsommar』(監督:Ari Aster) だ。
 Dani(Florence Pugh)はボーイフレンドのChristian(Jack Reynor) と彼の男友達たちと共に、スウェーデンの人里離れたとある村を訪れる。自給自足の生活をしながら、村人全員が1つの家族のように支え合って暮らしている様子は、一見穏やかで満ち足りたもののように見えた。そこで90 年に一度開かれるという、特別なMidsommar Festival(夏至祭)が始まるまでは…。
 夏至と言えば昼が一番長い日。バンクーバーの夏も夜まで明るいが、白夜の国・スウェーデンの夏ともなると日の出は午前3 時頃で、日の入りは午後10 時、とバンクーバー以上に昼が長い。2 時間27 分という上映時間のうちのほとんどが、眩いばかりの青空、木々や草の輝くような緑、色とりどりの花々で彩られた明るい画面だ。なのに、どこか不協和音を感じさせる不穏さが垣間見えて、不快さが募ってくる。夏至祭のクライマックスで、May Queen を選ぶダンスシーンに至っては、軽快な音楽と女性たちの晴れやかな笑顔が恐怖を煽ってくるのだ。これほどに、映像とそこから喚起される感情とのミスマッチが居心地が悪いとは思わなかった。物議を醸し出したラストシーン、私はDani の選択の理由が実によく理解できた。これは、夫婦や恋人同士のカップルで見た場合、もしかしたら” 踏み絵” と言えなくもないラストではなかろうか…。別の意味で怖い。
 Ari Aster 監督は、初めての長編映画『Hereditary』(2018 年・邦題『ヘレディタリー/ 継承』)で、” 地獄巡りのような恐怖の2 時間” という絶賛と” 意味不明で置き去り状態の2 時間” という困惑の、二分する評価を受けた。概ね『怖い』という方が多かったようだが、実は私自身はそれほど怖くなかった。今回の『Midsommar』のほうがずっと怖くて気持ち悪い。『Hereditary』は、Netflix で配信もされているので、興味のある方はぜひ。ただし、ホラー映画らしく衝撃的なシーンが盛りだくさんなのでご注意ください。

高野 宣李(たかの せんり)
Twitter: @usagy_van
さすらいの旅がらすライター。2002 年からバンクーバーに在住。好きな海外ドラマ、映画は数知れず。面白ければ何でもござれの雑食系で、カナダ、アメリカ、日本を股に掛けて映画やテレビを追っ掛ける日々。

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