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『The Farewell』-優しい嘘の、ほんとうの話-

『The Farewell』-優しい嘘の、ほんとうの話-

  昨年公開された『Crazy Rich Asians』は、全員アジア系のキャストで、アジア系移民の実態を克明に描き、更に王道のロマンチックコメディーのストーリーで観客の共感を惹き付けて「、アジア系映画はヒットしない」という業界の常識(?)を覆す大ヒット作となった。同作に出演したアジア系俳優の活躍も目覚ましいものがあり、中でも中国系アメリカ人のラッパー・Awkwafina は、『Ocean’s 8』(2018)の演技でも絶賛され、注目を浴びた。
 そんな彼女の最新作が、現在公開中の『The Farewell』(監督・脚本:Lulu Wang、監督本人の体験がベースになっている)。幼い頃に両親と共に中国を離れ、アメリカで育ったBilli(Awkwafina)。ニューヨークでライターを目指しているものの、なかなか芽が出ない。故郷の中国・吉林省の長春に住むNai Nai(マンダリンで“お祖母ちゃん” を意味する)とは中国を出てから一度も会っていないが、毎日のように電話で話をする仲だ。そのNai Nai が、末期の肺がんであることが分かり、余命は数ヵ月だという。しかし、Nai Nai にはその事実を知らせず、「その時」が来るまで心穏やかに過ごしてもらう…それが家族たちの決断だった。 Nai Naiに気づかれることなく、家族や親類みながNai Nai のもとに集まって“最後のお別れ” をする機会として設けられたのは、Billi のいとこであるHao Haoの結婚式。斯くして、家族全員が一丸となった「絶対に泣いてはいけない最後のお別れ作戦」が開始された。
 Billi は中国生まれだが、育ったのはアメリカなので、思考はアメリカ寄りだ。だから本当は、Nai Nai にも真実を告げるべきではないか、と思っている。それを止めているのは、中国で生まれ育った両親や、中国から日本へ移住した伯父家族の「アジア文化、アジア的思考」へのリスペクトだ。2 つの文化の間で揺れ動くBilli の姿に、ここカナダで「移民」という選択をした自分を重ねる人もいるだろう。
 顔で笑って心で泣いて、を地で行く家族みんなの奮闘には、ホロリとさせられる。そんな中で、ほのぼのとした暖かさをくれるのがNai Naiだ。三十路過ぎの“イイ年”のはずのBilli も、Nai Nai にとっては手元を離れた6 歳の時のままなんだろうなと思わされる幾つかの場面では、どこの国でもお祖母ちゃんてこんな感じなのかなあ…と、自分の亡くなった祖母を思い出したりした。遠く離れた家族の声が聞きたくなる、そんな映画だ。

高野 宣李(たかの せんり)
Twitter: @usagy_van
さすらいの旅がらすライター。2002 年からバンクーバーに在住。好きな海外ドラマ、映画は数知れず。面白ければ何でもござれの雑食系で、カナダ、アメリカ、日本を股に掛けて映画やテレビを追っ掛ける日々。

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