名探偵「未」登場
第4回 ちゃんと鍵かけた?

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第4回 ちゃんと鍵かけた?

2007 年 に“Locked Rooms and OpenSpaces”という本がカナダで出版された。
スウェーデン語で書かれたミステリを編・英訳したアンソロジーで、書名の通り、密室ミステリを多く収録している。
 おお、密室! 出入り不能な場所で見つかる他殺体。究極の不可能犯罪、それが密室殺人である。アガサ・クリスティー『ポアロのクリスマス』横溝正史『本陣殺人事件』ガストン・ルルー『黄色い部屋の秘密』、そしてなによりディクスン・カー『三つの棺』『ユダの窓』等々。ミステリに夢中になり始めた頃に読んだ名作は、たいてい密室殺人を扱っていた。おかげでいまでも〈密室〉という言葉には、反射的にときめいてしまう(で、よく見たら「気密室」だったりしてがっかりする)。Feb2,20161
 糸だの氷だのを使って、物理的にドアの鍵をしめちゃう話も悪くない。心理的な錯覚で密室が形成されていた、なんて話も大好き。でも、一番好きなのは両方をミックスした作品で、真っ先に思い出すのはピーター・アントニイ『衣装戸棚の女』。人が殺されている、と訴えを受けてかけつけた部屋はなぜか施錠されていた。やむなく鍵を銃で撃ってなだれ込むと、部屋には射殺体と衣装戸棚に閉じ込められた女が……真相に爆笑必至の傑作だ。島田荘司『占星術殺人事件』は、2014年〈世界密室ベスト10〉で第2位に選ばれた。娘たちの死体を切り取ってつなぎ合わせ、完全な女性を作りたい。Feb2,20162そんな文章を残し、画家が密室で殺された。さらに娘たちの切断死体が発見される……衝撃の未解決事件を描いたこのミステリは英米仏で翻訳出版され、大注目を浴びている。
 それにしても一時、世界ミステリの主流はクライムフィクションであり、変人名探偵が密室の謎を解くといった話が好まれる日本は、ガラパゴスと化していた。しかし、英米それぞれでシャーロック・ホームズの現代ドラマが大ヒットしたし、『名探偵ポアロ』の映像化も支持され続けて完結したし、案外みんな、謎解きだの名探偵だの嫌いじゃないらしい。そもそも上記のアンソロジーをみても、密室愛は国境を越えている。しかも出版社はカナダですよ! 
 こうなったらもう一歩進んで、いずれはカナダ人の、カナダ人による、カナダらしい密室ミステリを読んでみたいものだ。例えば、カナダの森の中で殺人を犯した樵が、死体の周囲に手早くログハウスを建てて密室を作りました、なんてトリックはどうかしら。

作品データ
『衣装戸棚の女』ピーター・アントニイ 創元推理文庫
『占星術殺人事件(改訂完全版)』島田荘司 講談社文庫


若竹七海

若竹七海

東京生まれ。立教大学文学部史学科卒。
1991 年、「ぼくのミステリな日常」(東京創元社)でデビュー。「夏の果て」(「閉ざされた夏」と改題して93年刊行)で第38回江戸川乱歩賞最終候補。
2013年、「暗い越流」で第66回日本推理作家協会賞(短編部門)受賞。
「悪いうさぎ」、「御子柴くんの甘味と捜査」、「さよならの手口」など、本格推理小説、コージーミステリからハードボイルド、果てはホラー、パニック小説、歴史ミステリと幅広いジャンルで著書多数。人の心の中に潜む悪意を描かせれば天下一品。

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