『よもやま日本語』   日本語教師 矢野修三 -3

☆ 「秋たけなわ」の巻
桜の花が咲き出す春に始まったこのコロナ騒動、あっ という間に夏も過ぎ、時節は木々の葉も色づく秋たけなわ。まさかこんなに長く続くとは。でもコロナのおかげで、自然の美しさ、季節の移ろいに感動している自分を見つけて、いとうれし。
 この「たけなわ」という表現、日常会話ではあまり使わないが、宴会などで「宴もたけなわ」は司会の決まり文句としてよく耳にする。でも漢字となると…、「たけなわ」の漢字は2つあるようだが、この「酣」のほうが分かりやすい。しかしこんな漢字を知っている人はごく稀である。私も日本語教師になるまで全く知らなかったし、1つの漢字だと分かった時はびっくりしてしまった。
 また意味も「物事のピーク、最盛期」であり、「宴もたけなわ」といえば「宴会も真っ盛り」の意味と思っていた。でも辞書にはもう1つ「少し盛りを過ぎた状態」という意味も出ている。確かにこの漢字の成り立ちから考えると、こちらのほうが本来の意味だったような気がする。なにしろ「酣」は「酒が甘い」と書く。お酒が強い人はピークを過ぎるとだんだん甘くなっておいしくなくなる…。正に最盛期を少し過ぎた、そんな状況がぴったりする。
 かつては「宴もたけなわではございますので」と「ので」を使っていたようで、ピークを過ぎたのでそろそろお開きに、なるほど。でも言葉は時代とともに。現在では最盛期の意味として使われるようになり、「宴もたけなわではございますが、」と「が」のほうがしっくりする。確かに「ので」と「が」では違いがある。
 「秋たけなわ」はとても趣のある表現だが、「冬たけなわ」はあまり馴染めない。でもこのコロナ騒動、真冬までには何とか収まってほしいものである。

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