社長訪問:平居 茂 「Fujiya」

健康第一

 「fujiya『The Vancouver Asahi』って映画やってるでしょ、ちょうどあの頃、生まれたんですよ」と流暢な関西弁で切り出す平居社長。バンクーバー国際映画祭でワールドプレミア上映され反響を呼んだ映画『バンクーバーの朝日』のことだ。
1937年、バンクーバーに生まれ、当時の日本人街だったPowell St. の一帯で育った。ご自身ではあまり覚えていないとのことだが、父親から聞いた当時の話が、映画のあちらこちらに散りばめられ、懐かしく思いを馳せたという。

「若い人たちもたくさん見に来てましたけど、実際にあった話として見てたかな?」

と疑問を投げる。もともと祖父の代からカナダに移住したので、平居社長は日系3世だ。父親は製材所で働き、母親は散髪屋だった。

4歳の時に第2次世界大戦が勃発、BC 州内陸部のLemon Creek へと移住させられた。日系人は家や財産を突然奪われ、強制収容所での生活を強いられたのである。終戦後はいったん日本に引き揚げ、祖父の故郷、滋賀で9年間を過ごした。カナダから来て英語を話すというので、今度は日本人から敵国人扱いを受け、敗戦後の貧しい日本での暮らしは、つらいものだった。「食べるためにとにかく働いた。 14歳頃から自分はずっと働いてましたね」と振り返る。  

カナダへ戻ったのは、平居社長16歳の時。まず数年間をアルバータ州で過ごした後、再びバンクーバーへ。

最初に始めた仕事は意外にも、母と同じ

散髪屋

だった。

が、仕事中に発生するダストが原因で喘息を患い、やむなく転職。友人の勧めでギリシャ料理のレストランで見習い として働く機会を得た。

数年後、もともと興味があった日本食レストランを開業することを決意。

この『Maneki Japanese Restaurant』はローカルの新聞にも大きく取り上げられるなど、話題を呼んだ。  

そして1977年、今度は日本食材を専門に扱うFujiya の第1号店をPowell St. にオープンさせた。さらにその2年後、「美味しいカマボコやさつま揚げを食べたい」という客の要望に応えるべく、食品加工工場Ocean Delight を開業。

平居社長、まだ40代前半の頃だ。

その後、Fujiya はさらに事業を拡大、リッチモンド店、ビクトリア店、バンクーバー・ダウンタウン店、また直営レストランであるHi Genki をバーナビーにオープン。

またPowell St. にあった1号店を現在のClerk Dr. に移転し、旗艦店として日系人はもとより、地元カナディアンからも絶大なる支持を得ている。

「苦労もたくさんしましたけどね。でも若い時は苦労したほうがええんです。借金をしてでも商売を続けたし、家も買った。最初から楽してたら、歳をとってから話すこと何もないでしょう? 苦労とは自分の歴史を残すことですよ」。

現在、平居社長は77歳。店には毎日顔を出し、レストランにも週に1度は必ず訪れるという。

「実はまた日本食レストランを新しく開きたいと思ってるんですよ。金儲けのためじゃなくてね、道楽です(笑)」。

平居社長の「食」にかける情熱はまだまだ冷めやらない。

Fujiya のお客さんは、白人のお客様が多いですね?

平居:うちはカナダ人を大事にし、カナダ人に合った接客をしてます。

ある日、
某中国系スーパーのマネージャーが店に来て、なぜFujiya は白人の客が多いのかと聞くんですよ。
彼らは中国人を大事にし、中国人に合った接客をしている。
それでは白人の客は来ない。

「I’m a Canadian. That’s the difference.」

って言ってやりました(笑)。
寿司にしても、通常の細巻きやったらカナダ人にはご飯の量が少なすぎるというので、海苔の大きさを工夫して、カナダ人に合うサイズに調整してるんですよ。

ビジネスを成功に導いたカギは、何でしょうか?

平居一生懸命によく働いてくれる従業員に恵まれてきたことが大きい と思います。そして何より、いつも自分の右腕として支えてきてくれた、うちの奥さんの存在なしには語れませんね。苦しい時も手に手を取り合い、夫婦二人三脚でここまでやって来ました。

人から「仕事が趣味」と言われるぐらいお仕事で忙しい毎日の中で、趣味や楽しみはありますか?

平居:相撲が好きで、日本語放送で欠かさず見ています。 相撲愛好会を作ったのは1998年、大相撲バンクーバー場所(カナダ公演)があった時ですね。会場の準備などのため毎日150人くらいのボランティアの人が来ましたが、その指揮をとっ たり、力士の接待もあったりで、家に帰る時間もなかったほどです。期間中は仕事には一度も顔を出しませんでしたね(笑)。愛好会は現在も、毎年8月に行われるパウエル祭で相撲大会を運営してるんですよ。

平居さんからのメッセージ~これからの君たちへ

ぜひ車を使って旅をしてほしいですね。バンクーバーから1時間走っただけでも、全然違う景色が広がる。
アルバータの地平線から昇って沈む太陽など、BC 州に留まらず、広いカナダを見て感じてほしいですね。

-インタビューを終えて-
若い従業員から「大将」と呼ばれ、慕われる平居社長。「カナダでビジネスをしていくには、まずカナダ人を大切しないといけない」と、日本人排斥のつらい歴史を経験したからこその言葉がとても重く感じられました。ゼロから一代でビジネスを築き上げた平居社長。義理・人情を大切にするそのお人柄こそが、Fujiya さんが多くの人から支持される一番の秘密なのではないでしょうか。

Photos:foodology

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