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『First Man』-映像に圧倒され、音楽に酔いしれる

『First Man』-映像に圧倒され、音楽に酔いしれる

 60 年の人気TV シリーズ『Star Trek』のオープニングで「Space:The Final Frontier」と語られた通り、映画の世界においても「宇宙」は様々な形で開拓しがいのある無限のロマンを秘めているテーマだ。中でも、人類史上初めて、そして唯一、地球以外の天体に足跡を残したアポロ計画にまつわる映画は、事実に基づいているだけに感動もひとしおだ。
 宇宙映画の金字塔と言われるアカデミー賞受賞作『The Right Stuff(ライトスタッフ)』(1983)は、有人宇宙飛行を目指すマーキュリー計画を背景に、宇宙飛行士を目指して果敢に挑戦していく7 人のパイロットの姿を描いた傑作だ。同じ時代背景の『The Hidden Figures(ドリーム)』(2016)では、パイロットを支える側の黒人女性たちの活躍を描いた。その後、ジェミニ計画でさらなる有人宇宙飛行を重ねつつ、いよいよ人類初の月面着陸を目指すアポロ計画がスタートした。アポロ計画にまつわるエピソードでは、アポロ1号が発射台で火災に見舞われた悲劇的な事故や、『Apollo 13(アポロ13)』(1995)で描かれた奇跡的な生還劇が印象深い。
 アポロ計画における月面着陸は確かに人類史に残る歴史的業績であることは間違いないが、宇宙飛行士たちのその後の人生を考えると、偉業として綺麗に片付けられるものではないだろう。人類史上初めて月に足跡を残した最初の人間- First Man -であるアポロ11 号の船長Neil Armstrong も、決して後に引かぬ果敢なヒーローなどではない。父であり、夫であり、時には立ち止まり後に引くこともあるけれど、逃げはしない。彼もまたThe Right Stuff(己にしかない正しい資質)の持ち主だから。そんなArmstrong の人生に正面から向き合ったのが、Damien Chazelle 監督[『Whiplash( セッション)』(2014)、『La La Land(ラ・ラ・ランド)』(2016)]『First Man』だ。Chazelle 監督の映画は、映像と音楽のコラボレーションが特に印象深いが、『First Man』でもChazelle 節が遺憾なく発揮されている。特にアポロ11 号の発射から月面着陸までのクライマックスは、『Whiplash』のラスト9 分の緊張を彷彿とさせるものがある。漆黒の宇宙空間をバックに流れる音楽と無音のシーンとの対比。見事なまでの緩急の切り替わりで、観ているこちちの脳もグルグルと回転するようだった。ぜひ、大画面で見てほしい映画だ。(ただし酔いやすい人は要注意!)

高野 宣李(たかの せんり)
Twitter: @usagy_van
さすらいの旅がらすライター。2002 年からバンクーバーに在住。好きな海外ドラマ、映画は数知れず。面白ければ何でもござれの雑食系で、カナダ、アメリカ、日本を股に掛けて映画やテレビを追っ掛ける日々。

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