岡井朝子在バンクーバー日本国総領事
インタビュー その2

カナダ初、バンクーバー初の日本の女性公館長となる岡井朝子氏が、在バンクーバー日本国総領事に着任されて1年が経過した。在留邦人にとって日本国総領事館はなくてはならない存在ながら、普段はなかなか訪れることは少なく、領事の方々が、どういう職務にあたっておられるかをほとんど知らないという人も少なくないのではないだろうか。Oops! 社社長が読者を代表し、日本国総領事館を訪ね、岡井朝子総領事に公私にわたるお話を伺った。  その2

領事館について

総領事着任のご挨拶の中にありました「開かれた総領事館を目指しています」というメッセージをいただいてから1 年経ち、どういう形で「開かれた総領事館」になりつつあるでしょうか?
 コミュニティーのニーズに寄り添うということと、親しみやすさ、「開かれた」という意味は私はそう解釈しています。コミュニティーのニーズを細やかに対応していくことによって、また親しみやすさもできてくるのかな、と思っております。まずは広報に力を入れまして、SNS などで総領事館や総領事について発信し、これまで「何をやるところなんだろう?」と思っていたところを、よく知っていただき親しみやすさを持っていただくこと。
   あとひとつは、「一緒にコラボする」ことを重視し、継続的に呼びかけています。一般の方をイベントにご招待するという形で募集をかけたり、参加型のイベントを企画したりして、コミュニティーの方との接点を増やす努力をしてきました。

今後のバンクーバーの日系社会の発展のために、在バンクーバー総領事館として邦人支援やイベントの後援、主催など、これからどのように関わっていかれるご予定でしょうか?
 「領事サービス」も充実させています。カナダは広いので「出張サービス」というのをできるだけやりたい、ということでカムループスやホワイトホース、ビクトリアの方にこちらから出向く数を2倍にしました。こちらは高齢の在留者の方々も多いですから、高齢者対策ということにも非常に力を入れており、介護施設へのミニ領事出張サービスの他、色んなコミュニティー、社会福祉や医療関係の方々と連携して、ネットワークで、例えば孤独死していく方がいないようにしようとか、そういう呼びかけもしながらやっています。領事館の待合室でセミナーを開いたりだとか、今は認知症のための映画の上映会の準備もしています。

領事館として、カナダの建国150 周年、日系人強制収容75 周年に関してコメントはありますか?
 今年は日系人の来訪140 周年でもあり、ということはカナダ建国の歴史とともに日系人の歴史はあるということです。これまで長く、深く、多様に交流してこれたこと、それに関与してきた方にすべての感謝の気持ちがあります。
 一時期は強制収容ということで排斥された日系人の方々も、リドレス運動を経て、今は多文化主義の中で日本文化を愛してくださる方、非常に関心を持ってくださる方がたくさんいるわけです。この多文化主義とその環境を作ってくれたカナダへの感謝と賛辞です。
 また、歴史から学び、さらに将来につなげたいということで、記憶してちゃんと未来に引き継ごうという動きに非常に賛同しています。
 具体的には、今、海洋博物館で行われている『Lost Fleet』という、75年前に約1,300 隻の船団が一挙に強制的に没収された経緯を捉えた展示や、BC 州政府が歴史遺産(ヒストリックサイト)を登録する作業を応援するといった形で、日系人強制収容75 周年の記念行事に参画して、その取り組みを支援するようにしています。  またカナダ建国150 周年記念に関して、2つの大きな行事があります。 先日、リッチモンド市の招聘により、海王丸が来訪しました。これはまさに150 周年のお祝いのためで、実は、100 周年の時も日本の帆船が2隻、BC州に来訪しています。あと、海上自衛隊の練習艦隊が9月に来訪しますが、日本海軍の時代も来訪していたりしますから、そういった歴史を振り返ることができます。

ハーグ条約やドメスティック・バイオレンス(DV)に関してのバンクーバー総領事館でのサポート、取り組みは?
 ハーグ条約に関しては、領事館のウェブサイトにも載っていますし、情報提供パンフレットというのもあるんですが、直接、相談もお受けしています。こちらではカナダ人と結婚されている女性が多く、子供の親権を巡って訴訟沙汰になったりなどのケースを抱えていらっしゃる方も多いので、私どもが支援できる中身だとか、これ以上やると犯罪になっちゃいますよ、という注意喚起とかアドバイスする、という取り組みをやってきております。 領事窓口やメールからも相談をすることができますし、HP に支援を受けられる団体なども出させていただいています。
 DV に関しても、YWCA の専門の方がホットラインで対応してくれます。女性が対応してくれるというメリットもあると思っております。相談するのは、結婚をしている相手だけじゃなくて恋人でも大丈夫です。
 今後、被害に遭った方々に問題を聞かせていただいて、問題を類型化して発信し、再発防止、予防となるようにしたいと思っています。
 DVホットラインについての記事

バンクーバーに滞在している在留邦人について

バンクーバーにはワーキングホリデーや留学などで滞在しているたくさんの若い日本人がいますが、こうした若い世代に海外でこうしたことは体験して日本に持ち帰ってほしい、とアドバイスを送るとしたらどんなことでしょうか?
 私がぜひとも持って帰ってほしいというのは、外国の人に対しても物怖じせずにしっかりと自分の考えを伝えることができるコミュニケーションスキルというのを身につけてほしいということです。  

 1年2年はあっという間に過ぎてしまうので、1年後、2年後の「なりたい自分」を設定して、勉強や仕事をしていただければ、と思います。そこの「目標値」として意識していただきたいのは、今後、グローバル人材として活躍するにあたって、きちんとしたものの考え方で、礼儀正しくプレゼンできる能力というのは必須だと思います。その場に自分は何を期待されて、何を言うのが適切なのかを的確に判断して、きちんとプレゼンできる、というコミュニケーション能力というのが今後必要になってくるのではないかと思います。
 もう1つは、せっかく海外に出てきていて、外のものを吸収したいと思う気持ちもあると思いますが、ちょっと立ち止まって、「日本人らしさ」とは何か、「日本の美徳って何?」ということに思いを馳せてほしいと思います。例えば、ホームステイした先にちゃんと「ありがとう」と言えるかです。日本のことを好きになってもらえるとか、日本の文化をもっと知りたいと思ってもらえるかは、やはり短期滞在、ワーホリや留学生の方達の態度如何によって変わってくると思います。
 日本人のイメージが良いということは、結局は突き詰めていくと人と人の接触の中で、「ああ、日本人って本当に良い人で、すごく礼儀正しくて、文化もすごく奥が深くて、だから好き」となるような効果があるので、日本人である自分が海外でどんなイメージを持たれるかというところにも思いを馳せてほしいと思います。

留学生やワーキングホリデー、観光で来られている方々が、滞在中のトラブルの中で多いものは何でしょうか?
 1番多いのはやはり、パスポートやお金をスリに遭った、置き引きに遭った、の類いです。あとは、ちょっと不注意に危ないところに行ってしまうとか、他人について行ってしまうとか、海外にいるという自覚が足りなくてトラブルに巻き込まれるという例 があります。
 総領事館のHP では「ここに行ってはいけない」とか、気をつけなくてはならない安全対策という記載があるので、ぜひお読み下さい。  安易に日本にいるような感覚でいるとトラブルに遭います。英語を学びたいとか、現地の人を知りたいとか、そういった気持ちがあることは十分理解できますが、やはり注意を怠ってはいけないんです。凶悪犯罪の件数というのは、実は日本より比べものにならないほど多く、日本の犯罪率に比べ、8倍もあります。「カナダっていいところ」と思いがちですが、実態はそういう面があることを認識して、自分の身は自分で守る、という心構えが必要だと思います。

最後に在留邦人の方へのメッセージをお願いします。
 総領事館では、「開かれた、コミュニティーのニーズに寄り添った形で親しみやすい総領事館」というのを目指しているんですが、それに当たっては色んなご意見やご提案をいただけたら、と思っています。それをできるだけ実現していきたいです。
 私どもは、色んなものの「ファシリテーター(推進役)」だと思っています。皆様からのご意見やご要望、ご提案がまとまると、もしかしたらもっと力を発揮できるかもしれないじゃないですか。
 交流とか経済関係もそうですけど、私どもに情報を出していただけると、例えば、私どもがコネクトできたりするわけです。色んな方々のご提案をコネクトし、ファシリテートし、さらに大きくするという風に思っていますので、「日本をプロモートするためにこういったことがいいんじゃないか」とか「こういったところがもうちょっとできればいい」とか、そういうのを皆さんと一緒に考えていきたいと思っております。


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