ツナママ日記

25年間『Naomi's Cafe』を経営し、現在は日系へリテージセンターで大人気の料理教室を開催する清水ナオミ先生。
「私はね、食べることが大好きだし、人にお料理を食べてもらうことが、一番の幸せなの。喜ぶ顔を見るのが嬉しくてね」。
そういって笑う人生の大先輩の言葉はとても優しく、じんわりと心に響いてくる。

日系へリテージセンターのロビーで待ち合わせたナオミ先生は、77歳とは思えないほど若々しく、はつらつとした笑顔で出迎えてくれた。カナダ生活55年の大先輩に、心に残る出会いは?と訪ねると、25年間経営した『Naomi's Cafe』での数々のエピソードが、笑い声とともに飛び出してくる。儲けにはならなくてもお客のダイエットに協力したこと、今までの家族の協力と理解に今でもとても感謝していること、様々な出会いや別れのあるカフェで、悲しい様子のお客は何も言わなくてもわかってしまうから、そっとティッシュ箱を机の上に置いたことが何度もあったという。「友人を持つことが一番の財産」と語るナオミ先生は、今でもカフェのお客だった人たちや料理教室の生徒たちから慕われ、友人たちのために料理をするのが本当に幸せだと言う。

 「私は、みなさんからの『ありがとう』の気持ちに勇気付けられて、料理を作ってきました。皆さんの笑顔とありがとう、美味しいですという言葉が私にエネルギーをくれているのです」。

ナオミ先生は料理が初めから上手く出来たわけではない。カフェの開店当初にはマフィンも上手に焼けなくて、お客さんたちに教えてもらって試行錯誤。失敗を繰り返し、もっと簡単に上手に出来る方法はないかと、何度も何度もトライして自分だけの作り方を見つけてきた。だから、ナオミ先生が教えるシュークリームもパイもシフォンケーキも、初心者にも失敗せずに作れる。料理教室では、企業秘密などと言わず、絶対失敗しない料理のコツを伝授している。

今までNaomi's Cafeはテレビやラジオ、バンクーバーのローカル紙に何度も取り上げられているが、それは全て口コミでメディアに伝えられたものばかり。それだけ、地元の人に愛されるお店だった。「ナオミのお店は、行列が出来るぶんだけ損をするんじゃないの?」とカナダ人常連客達から苦笑される程、ナオミ先生はお金のない人に無料で食事を出すことも多かったという。また、こんなこともあった。20年以上前の留学生はあまりお金を持っていなかった。毎週金曜日に先生は留学生達に無料で日本食を提供。そんなナオミ先生を慕って、開店前のお店の前には、身の上相談のために開店を待つ学生達の姿がいつもあった。言うまでもなく、お店はいつも満員で開店前は行列ができた。日本人経営のカナダのお袋の味は多くの人を魅了し、今もなお、当時のお客さんからバースデーケーキなどの注文が来るという。

 「カフェにはね、しばらく脳に障害を持つ3人のスタッフが働いていたんです。そのうちの1人、ジェニーは5人姉妹の一番上で、彼女以外はみんな弁護士や学校の先生といったキャリアを持つ優秀な姉妹でした。ジェニーは、うちでお皿洗いをしていたんです。彼女は同時に2つのことができないのね。そんなジェニーの仕事の1つが、『新聞をとっておいて』と頼むジムというお客のために新聞を確保しておくこと。ジェニーはね、いつもジムのために新聞を自分のエプロンの下に隠しておくんです。彼が来る時間には、新聞を探している他のお客に見つからないように、キッチンの隅に隠れてね。それで、ジムが来たらこっそり渡しにいくの。その様子が可愛らしくて、可笑しくてね、お客さんをとっても喜ばせてくれました。彼女は今、コキットラムの養老院でヘルパーとして働いていますよ」。その当時を思い出してか、少し懐かしそうに目を細めるナオミ先生が、ぜひ若い人たちに覚えておいて欲しいと、2つの話を教えてくれた。

あるところに大きくて立派な木がありました。豊かな枝には小鳥が遊び、夏になると家族連れや友達同士がその木の下でピクニックをするのです。そうして長い間幸せに過ごした木も、やがて老木になり切り倒されてしまいました。切り株になったその木に、ある人が話しかけます。「昔は良かったね。あなたの周りにたくさんの人や動物が集まって」。すると切り株はこう答えるのです。「私は今でも幸せです。自分の切り株の上で、人を休ませてあげられるのですから」。

 病床に付いた老人に、お見舞いにきた友人が言います。「昔は良かったね。みんな若くて元気で」。すると老人はこう答えるのです。「私は死の床にいる今でも幸せなんです。だって、周りの人たちのために祈ることができるのですから」。  「この2つの話をね、本当に辛くなったときに思い出して欲しいの。どんな状況でも、必ず人のためにできることが何かはあるはず。人は、1人では生きていけないの。私はね、人の役に立つことが最高の幸せだと思っているんです。だから、人と争っているうちはダメ。自分との戦いは一生ですからね」。


プロフィール 
清水ナオミ
大阪市出身。26歳で結婚を機にバンクーバーへ。レストランや洋裁の仕事を経て40歳のときにニューウエストミンスター市で『Naomi's Cafe』をオープン。日系人、日本人だけでなくカナディアンにも「おふくろの味」として人気を博す。'96年の閉店後は、バンクーバースクールボードで7年間料理教室を担当。現在は、日系へリテージセンターで料理教室を開催しながら、季節のコミュニティー行事や教会のバザーに参加したりと、忙しい毎日を過ごす。

『ナオミ先生の料理教室』
http://www.nikkeiplace.org/weekly-programmes/cooking

 
 
       
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