東京都出身。美術大学芸術学部造形計画専攻科を卒業後、技術士として5年間、家の設計に携わる。その後、カナダへ語学留学し、約2年間、英語の勉強に専念。現在は『Hello Canada Education Service』でカウンセラーとして勤務する傍ら、創作活動を行っている。カナダで発行されている雑誌『Canadian Health Style』( http://www.canadianhealthstyle.com/
features/feat_awake_dream.html
)やノースバンクーバーのイベントポスターにイラストを提供している。


顔のない裸体を、縦割りにした木に描いた作品
夢を追う。これは、子供すぎず、大人すぎない者にだけ許された特権。
バンクーバーにも、そんな夢追い人たちがいる。彼らが追いかけるものとは何か。
どのようにしてその夢とめぐり逢ったのか。
彼らは今、この街の空気の中で何を感じているのだろうか。
彼ら1人1人が自らの中に秘めているストーリーを聞く。


本当の言葉で人生について伝えていきたい
第23回:アーティスト・イラストレーター
MISA/小野美佐子(31歳)


MISAは画家でありイラストレーター、また詩人、建築士でもある。MISAの話し声はどちらかと言うと小さく、ふわりと耳に入ってくる。そのか細い声のせいなのだろうか。周囲からは“掴み所がない”と形容される。けれど、彼女の絵画や絵詩集『ことばの森(Word Forest)』には、自分自身を知った人ならではのメッセージが散りばめられている。絵詩集の冒頭に描かれている“Open your mind”という言葉は、彼女だからこそ描き出せる言葉だろう。

 
木に何になりたいかを聴く
 子供の頃で思い出すのは、木登りや自宅で飼っていたアヒルと一緒の散歩。ウサギも飼っていた。「私、言葉のない生き物とコミュニケーションを取ることが好きかも」。中でも木は特別な存在で、最近はアクリル絵の具を使い、手と指で直接木に絵を描いている。例えば長さ30cmの縦割りにした木には、節の曲線の上に女性の裸像を描いた。「私が描いた、と言うより木が描かせてくれたって言うのかな。描く前に、木に、何になりたいかを聴くんですよ。木は動けないし口もきけないけど、根っこを広げて立ちはだかってる。そんな木の姿を見てるとすっごい力を感じますね」。
 170cmの細身をソファにうずめて、作品の絵詩集『ことばの森(Word Forest)』を見せてくれた。両手に載る大きさの画集に書かれた、英文の短い詩と手や足などのイラスト。「私にとって手や足は、人のヒストリーのような気がするんです」。詩は、経験から学んだことを正直に書く。1行〜数行と短いのは、多くの情報を与え過ぎないことで、読み手に想像してもらい深く考えて欲しいから。MISAは詩の1つを日本語に訳して、淡々と読み始めた−異国の地で僕は僕を探していた−。
 彼女曰く、I (アイ)は“僕”になる。僕に性別はない。僕は、子供のような、汚れていない心の象徴。“ホントウの私たち”みたいな感じ。本当でいたい、とは彼女の信念でもある。


人生はいいものだなァ
 詩と絵は同時にイメージが湧く。アイディアを思い立った時が、描きたい時。忙しかったりストレスが溜まるとその発散先が絵になり、作品に向かう時は、たいてい哀しかったり、心の中で何かを模索していたりする。「私、楽しい時は、描くことって考えない」。昨年はこれまでと比べて、自分が描きたい、と思った絵を多く生み出した年だという。じゃあ、葛藤もたくさんあったの? 「そうだったのかなあ。分かんない」。首をすくめる。もどかしそうな表情で。
 今年は、展示会を開いたりギャラリー巡りをして、どんどん自分の作品を人に見てもらいたい、そんな気分。作品に共通するテーマは、人生について、だ。子供の頃から遭遇してきた身近なペットや生物達の死、大学時代に経験した親友の死が、無意識のうちに人生について考えるきっかけとなったのかもしれない。彼女が言う『人生』とは、「哀しみや苦しみ、弱さ、そして強さって言うことかな。人生いろいろなことがある。人それぞれ、さまざまな人生があり、時には難しいこともあるけれど、でも、人生はいいものだなあ、みたいな。そんなことを描いて、で、観る人が『そうだよなァ』って感じてくれたらいい」。
 カナダで暮らして5年。日本にいた頃の自分と比べて随分強くなった。語学留学を目的に1人でこの土地へ来て、「むちゃくちゃロンリーだったし、見たくなかった自分の性格の一部にも直面しなくちゃいけなかったり。こういう経験をしてきて、最近は“もう何でも来い!”みたいに変わった。自信がついたんですかね」。怖がらなくてもいい。英語力じゃない、姿勢の問題。そんな気持ちの持ちようが自信に繋がった。
 周囲からは“掴み所がない”と形容される。そうなのかな? 絵詩集を閉じて、彼女の横顔をじっと見つめた。自分の好きなこと、イヤなことが明確な人。信念を持ち、自分の手と足で、夢を掴もうと努力している人。隣に座ってじっくり話すと、彼女の芯が少しずつ見えてくる。
 例えば、言葉のない生き物とコミュニケーションを取るということは、こころの声に耳を澄ますってことじゃないのかな。Open your mind ―自分のホントウの姿を知っているから言葉にできる言葉。 在りのままの自分を認めたら、そこから世界は広がっていくよね。





「自分の中で言いたいことは一杯あるけど、作品を見た人が、好きなように感じてくれたらそれでOK」

―子供の頃から絵を描くのが好きだったのですか。美大へ行くきっかけは?
MISA:鍵っ子なんで、家でずっと絵を描いてました。高校時代は自分からアトリエへ通い出して、そこで与えられた課題を描くというトレーニングをしていました。美大へ行ったのは、自分の絵がどこまで通用するのか試してみたかったから。

―日本での職業とカナダへ留学する経緯を教えて下さい。
MISA:美大を卒業後、建築士として会社勤めをしてました。けど、仕事が忙しくて絵を描く時間がなく、どんどん自分の中で「何かが足りない」と思うようになって、5年勤めた会社を辞めてカナダへ来たんです。英語を習得したかったのは、ただ人と喋りたかったから。大学生の頃、世界12ヵ国を巡る旅へ出て、旅先でもっと人とコミュニケーションを取りたい、と思ったのが英語を勉強したいと思ったきっかけですね。

―絵詩集の執筆はいつ始めたのですか。
MISA:8、9年前かな。書き始めた、というより、ある時、自然に始まったという感じ。

―いつか出版したい?
MISA:もう出版してて、いいはずなんですけどねえ。うん、いつか出版に導いていきたい。

 
―イラストと絵画、どんな違いがありますか。どちらに力を入れていきたいですか。
MISA:どちらも大事ですね。イラストと絵画は見た目は違うけど、私にとってはどちらも同じ存在で、言いたいことは一緒なんで。自分の中で言いたいことは一杯あるけど、作品を見た人が、好きなように感じてくれたらそれでOK。だから作品にはタイトルは付けないんです。

―作品に顔が描かれてないですね。絵詩集も、手と足のイラストがほとんどで顔は全然ありませんが。

MISA:私、顔は描かないんです。顔を描いちゃうと、観る人の想像を止めちゃうじゃないですか。だから木に描いた裸体の女性にも、眼や鼻はないでしょう。

―好きな画家は?
MISA:エゴン・シーレ。彼の言いたいことが分かるし、きれいな所ばかり描いてるんじゃないから好き。真実を描いてるって所かな。

―今後の活動予定を聞かせて下さい。
MISA:今年は3回くらい、フォトグラファーの友人とカフェかどこかで共同展示をしたいと思って、場所探しをしている所です。それに今年は、どんどん自分でギャラリーを巡って作品を売り込んでいくぞ、みたいな、気持ちでいます(笑)。
―自分の長所、性格について教えて下さい。
MISA:オープンで正直。ゲームをしない所。性格としては、何でもやりたい方で、やりたい、と思ったら納得がいくまでやる。そして私、嘘がイヤ。だからお世辞もイヤ。結構、激しい所もあって、本気で怒ると喧嘩します。カナディアンと口喧嘩になったこともあるし。
(聞き手・文:小森美由紀 )